社会保険未加入対策に伴う建設業・経審への影響
■建設業における社会保険未加入の実態
建設業者の社会保険(労災保険、雇用保険、健康保険、厚生年金保険)への加入率は、他の産業に比べて著しく低い状態です。
国土交通省が公表している各種資料によると、建設業全体における雇用保険と厚生年金保険の加入率は次のとおりとなっており、約4割が未加入の状態です。特に、2次下請以下でみると40%台の加入率に下がってしまいます。
■社会保険未加入対策が行われる理由
法律上、会社は1人、個人事業者は5人以上の従業員(労働者)が在籍する場合、社会保険への加入が強制的に義務づけられています。
社会保険の所管官庁ではない国土交通省が、社会保険への未加入問題への対策に乗り出す理由は、大きく分けると次の3つと考えられます。
社会保険が未整備という労働条件の悪さは、建設業界の魅力を著しく減殺させ、結果的に若者の入職者を極端に減少させている。
建設技術者の高齢化に伴い、技術が次世代に継承されず、社会資本(道路、公共建物など)の維持が困難となる。
適正に社会保険料を納付し、人材育成に注力している建設業者よりも、社会保険に加入せず保険料を支払っていない建設業者の方が、競争上有利な状態が出現している(保険料を負担しない分、価格競争に強い)。
■建設業許可・更新時の社会保険加入状況確認
平成24年11月1日より、許可行政庁は、建設業許可申請時と更新時に社会保険への加入状況の確認を行っています。実務的には次のような流れになります。
新規許可および許可更新の際に、様式20号の3「健康保険等の加入状況」という新様式を提出させ、社会保険加入状況の確認を行う。
確認書類として、雇用保険関係は「労働保険概算確定保険料申告書」および「領収済通知書」、健康保険および厚生年金保険関係は「(社会保険料の)領収証書」または「社会保険料納入証明書」が必要となる。
未加入業者には、許可と同時に指導文書が送付される。指導文書に基づいた加入報告が求められる。
指導に応じない場合は、社会保険担当部局(健康保険・厚生年金関係⇒日本年金機構、雇用保険⇒地方労働局)に通報され、社会保険当部局により、強制加入・保険料強制徴収へと進行する。
■経審における社会保険未加入業者の減点拡大
平成24年7月1日より、社会保険未加入業者の減点幅が拡大されています。
社会保険未加入業者が受ける総合評定値に対する悪影響は、甚大なものとなります。社会保険未加入業者を経審(つまりは公共工事入札)から排除してしまうだけの破壊力が備わったと見るべきです。
■元請業者による下請指導の強化
社会保険未加入の建設業者は、下請業者に多く見られることから、元請業者による下請指導の一環として社会保険への加入指導を含めることとなりました。
施工体制台帳の記載項目に「社会保険の加入状況」を加えることにより、施工体制台帳を作成すべき特定建設業者たる元請業者が、下請業者の社会保険加入状況を必ず確認する体制が整えられました。
元請業者による下請指導として今後行われるであろう内容は、概ね以下のとおりになることが予想されます。
下請選定の際に社会保険の加入状況を考慮に入れる。あるいは、社会保険未加入の下請業者を採用しない。
現場ごとに社会保険の加入状況を証する書類を提出させる。
社会保険未加入の技術者や作業員を現場に立ち入らせない(平成29年度から)。
下請基本契約書に社会保険加入条項を追加し、違反者には取引停止などのペナルティーを科す。